聞かれまつがい

 私の声の聞き取りにくさは中々のものらしく、一回言っただけで自分の発音が人へ正確に伝わると感動する程である。
感動は少し大げさだったが、それでも普段から「はい?」「え?」「なに?」人から私に返ってくるこのような単語は聞き慣れている。
分かっているならどうして大きな声でしっかり発音しないんだ!とお叱りを受けるかもしれないが、私も一応気を付けるようにはしているのだ。
だがまだまだ努力が足りないのだろう。
普段から聞かれまつがい(糸井重里の聞きまつがい風に)がある。


「怖いバンド名だね・・・」
以前、初対面の音楽関係の方に自分のバンド名を言った所、上記の台詞が返ってきた。
その時は意味がよく分からなく、更に飲みの場で席が少し離れていたため、私は曖昧な笑顔を浮かべて終わったが、よくよく考えるとあの方はきっと、『SASITE(刺して)』と聞こえたのだと分かった時の衝撃。
その方は九州にいらして、以降お会いする機会もないので、もし覚えて下さっているなら、私は刺してのギターの奴、となっているのだろう。


 目を見てはっきり言えばきっと伝わる!熱き想いを胸に、ライブハウスのバーカウンターで、「カシスオレンジ」と店員の方の目を見つめ口を大きく開けながら発音。
それを聞いた店員の方はうなずきグラスを手に取る。
カシスオレンジにライムって入れたっけか?と思う間もなく差し出されたジントニックは、何だかいつもより渋い味がした。


 私はたまに「かつら」として振る舞う。
“つ”を“く”に訂正するのは中々面倒なのだ、ましてその時だけの関係(取次で名前聞かれたりとか)なら尚更・・・
全国のかつらさん、勝手に名前を使いごめんなさい。