それから2月中旬まで、平日でも土日でも時間が空けばほとんど部屋探しに時間を割いていた。
初めての不動産屋訪問は、以前から住んでみたいと思っていた土地の地元密着型の店。
夜であったが近くの家賃の手頃な物件を案内してくれると言う。
営業の方に付いて歩いていると、周囲の景色は段々と物寂しいものになっていく。
この先に物件があると言われた道は、突き当りがどうにも暗く胸に何だか不穏なものを感じる。
その突き当たり手前にある物件は、さすが築50年と思われる古めかしい外観であったが、中はリフォームされていてとても綺麗。
見た目と中のギャップに驚きつつ、洗濯機置き場はベランダにあるんですよね?とベランダの戸を開けた。
すると目前に広がったのはひたすらの暗闇。
ベランダのすぐ前にあるしだれ柳のような大きな木はやけにおどろおどろしく見える。
「何か・・・外すごく暗いですね・・・」
『あ、そこはお墓です』
さ・き・に・言・っ・て
心の底から思った。
帰りに物件名で検索してみると、元住人の方のブログを発見し、そこに住んでいた頃、夜によく金縛りにあったと書かれてあった。
このようなスタートを切った部屋探しは、幾つかの駅で幾つかの不動産屋を介して30件近くの物件を見て回った。
Gの現物を見てひっくり返りそうになったり、スラム街の雑居ビルですか?と思うような物件に行ったり、スナックの真上の部屋でおじさんのこぶしの入った演歌を聴いたり、今思い返すと様々な部屋を見ることが出来て中々面白い体験だったように思う。
難航した部屋探しも無事終わりを迎え、ある日いつもの電車に乗っていた。
電車から見える景色に、今まで特段何を感じるわけでもなかったが、この景色を見ることはこれから先そうないのだと思うと、急におセンチな気分になってくる。
何もない駅であるとか、アレな人がたくさんいる路線だなどと散々悪態をついてきたが、何もないことが良さだったのかもしれない、電車の中で心暖まる場面もあったじゃないか、などと手のひらを返した考えを頭に浮かべ、物思いにふける。
引越し先の街は自分に合うのだろうか。不安を・・・
『ファッキュー!!』
何やら物騒なワードが聞こえその方に目をやると、小さな女の子がお母さんの腕の中で上記の台詞を叫んでいた。
動揺したが気を取り直す。
・・・不安を感じないわけではない、思い返せば色々・・・
『ファッキュー!!』
あったな、ここに住んだことで友人も出来たわけだし慣れたこの・・・
『ファッキュー!!』
『ファッキュー!!』
あったな、ここに住んだことで友人も出来たわけだし慣れたこの・・・
『ファッキュー!!』
街を離れる選択は正しかったのだろうか・・・
『ファッキュー!!』
・・・・・・
この辺で電車がちょうど自分の駅に着く。
降りる際、その女の子達も降りて行くのが視界に入る。
この街を離れる選択は正しかった。
そう強く確信し、引越し当日まで指折り数える日々を過ごした。